エドワード・ホッパーの17枚の絵画が、一流ミステリー作家たちの筆で動き出す

今回ご紹介するのは、2019年6月に発行された一冊の本。ローレンス・ブロックが編集し、田口俊樹氏らが翻訳を手がけた、エドワード・ホッパーの絵をモチーフにした短編小説集『短編画廊』だ。ホッパーが描いた17枚の絵画を題材に、17人の作家たちが紡ぎ出したミステリーの世界を紹介したい。

なぜエドワード・ホッパーは作家たちを惹きつけるのか?

1882年にニューヨークに生まれ、1967年に85歳でこの世を去ったエドワード・ホッパー。彼が描くアメリカの風景や人物は、なぜこれほどまでに読書家や作家の心を捉えて離さないのだろうか。

当時の批評家から「イラストレーションだ」と片付けられることもあった彼の作品だが、ホッパー自身の関心は、形と色、そして光そのものにあった。彼は世界の一瞬を切り取り、私たちに提示する。その一瞬の前後にある「過去」と「未来」を想像し、物語を紡ぎ出すのは、見る側の人間なのだ。その空白こそが、作家たちの創作意欲を激しく刺激するのかもしれない。

高精細な「画集」としての魅力

本書を手にして驚くのは、近年の印刷技術の高さだ。ホッパーの絵画がまるでそこにあるかのような高解像度で、色彩豊かに再現されている。これは単なる小説集ではなく、一冊の「画集」としても成立するクオリティだ。私自身、初めて目にするホッパーの作品もあり、その魅力に思わず見入ってしまった。

至極の2編:『ガールショウ』と『朝日に立つ女』

収録された17の物語の中から、特に私がお勧めしたい2つの作品を挙げよう。

  • 「ガールショウ」(ミーガン・アボット):巻頭を飾るこの作品は、ニューヨーク在住の作家によるもの。セクシーでありながらスリリングな展開に、読み始めた瞬間からぐいぐいと物語に引き込まれてしまう。
  • 「朝日に立つ女」(ジャスティン・スコット):ミステリー界のサラブレッドとも言える彼が綴ったのは、驚きの大どんでん返しが待つ短編だ。死を決意した男が、最後に抱いた女。裸で窓辺に立つ彼女の姿を描いたホッパーの絵をもとに、過去と未来が美しく交錯する。

まとめ:絵画から物語を紡ぐ贅沢な体験

小説家の卓越した想像力と、翻訳者による美しい日本語。エドワード・ホッパーの絵画が持つ不思議な魔力に触れながら、一編ずつ丁寧に読み進めてほしい。皆さんもぜひ手に取って、この「危険な関係」を体験してみてはいかがだろうか。


書名:『短編画廊 絵から生まれた17の物語』
編集:ローレンス・ブロック / 訳:田口俊樹 他