2019年の台風19号による浸水被害。この災害が日本の美術館・博物館界に落とした影は、あまりにも深い。川崎市市民ミュージアムが、被災した収蔵品約4万点の廃棄を決定したというニュースは、私たち表現者にとっても他人事ではない衝撃であった。
「複製技術芸術」の脆弱性と保存の壁
廃棄されるものの多くは、マンガ雑誌や単行本、写真といった「複製技術」に基づいた資料だ。『週刊少年マガジン』や『鉄腕アトム』など、日本の大衆文化を支えてきた貴重なアーカイブが、カビや汚泥の被害によって失われる。たとえ「代替品が存在する」という基準であっても、一つの館が積み上げてきたコレクションの文脈が途切れることは、地域の歴史遺産の一部が死ぬことを意味する。
彫刻家として思う、物質としての作品保存
私たちが手がける彫刻のような一点物も、紙媒体のような複製芸術も、ひとたび災害に遭えばその「物質」としての命は危うい。今回の悲劇を教訓に、公立美術館におけるバックアップ体制や、デジタルアーカイブと実物保存の両立について、今こそ真剣な議論が求められている。