2021年、横浜・愛知・富山の3つの公立美術館が誇る西洋美術コレクションを持ち寄る「トライアローグ」展を訪れた。結論から言えば、富山県立美術館(現・富山県美術館)のコレクションの圧倒的な素晴らしさに、ひときわ感動し、そして唸らされた展覧会であった。
「肘掛け椅子の女」が示す、圧倒的なクオリティの差
展覧会の入り口、3館から持ち寄られた4点のパブロ・ピカソが並ぶ。そこで目を引いたのは、富山県美術館の「座る女」そして「肘掛け椅子の女」だ。青の時代のコレクションを持つ愛知も素晴らしいが、作品としての純粋な価値、クオリティにおいて、富山の「肘掛け椅子の女」は抜きん出ていた。フェルナン・レジェにおいても同様だ。一体、誰がこれほどのコレクションをまとめ上げたのか。
気になって調べたところ、初代館長である美術評論家・小川正隆氏(1925-2005)の功績に行き当たった。1980年代、彼が館長を務めた時代に集められた現代美術、現代絵画の数々。さらにその背景には、シュルレアリスムの巨星・瀧口修造も関わっていたという。秀逸なアートコレクションが並ぶ理由に、私は深く腑に落ちる思いがした。
彫刻家には「彫刻」を:マスターピースを揃える審美眼
コレクションの質の差が顕著だったのは、ハンス(ジャン)・アルプだ。アルプは彫刻家であるにもかかわらず、愛知と横浜がレリーフを収蔵しているのに対し、富山だけが堂々たるブロンズ彫刻を所有している。アレクサンダー・カルダーにおいても、富山だけが素晴らしい「モビール」を手にしていた。美術館の役割とは、地元の人々に「本物(マスターピース)」を見せることであり、それが次世代の芸術家を育てる礎となる。私はそう確信している。
1兆円を超える価値。至福の「本物」体験
特筆すべきは、展覧会の最後に現れるゲルハルト・リヒターだ。1982年のドクメンタに展示されたこの最高傑作は、当時の富山県美術館がいかに先見の明を持って収蔵したかを物語っている。さらに、アンディ・ウォーホルの「マリリン」10点のリトグラフ。これは画商に買わされたような品ではない。色、質、ともに最高峰の「本物」だ。
ジャクソン・ポロック、フランシス・ベーコン、そしてロバート・ラウシェンバーグ……。富山のコレクションを合計すれば、現在の価値にして1兆円、あるいは3兆円に届くのではないか。購入時からの価値の跳ね上がりを考えれば、これは教育的意味だけでなく、驚異的な資産的成功でもある。
まとめ:アートを志すなら、絶対に「本物」を見ろ
図版やカタログでは何も始まらない。このトライアローグ展で、世界的なアーティストたちの「本物」を間近にできたことは最高の体験だった。唯一、愛知県美術館のジョージア・オキーフ「抽象ナンバー6」のクオリティには感動したが、全体を通してみれば、富山県美術館を作り上げた小川氏や学芸員、そしてそれを支えた市議会の皆様への尊敬の念が止まらない。
この展覧会は巡回する。本物に触れることの幸福を、ぜひ会場で体感してほしい。
【トライアローグ】横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション
愛知県美術館:2021年 4月23日(金)~ 6月27日(日)
富山県美術館:2021年 11月20日(土)~ 2022年1月16日(日)
公式サイト:https://yokohama.art.museum/special/2020/trialogue/