【開幕レビュー】第8回横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで生きてる」を彫刻家が読み解く

本日2024年3月15日、横浜の街が現代アートの色に染まる3年に一度の祭典、「第8回横浜トリエンナーレ」が開幕しました。大規模改修を終えた横浜美術館の約3年ぶりのリニューアルオープンとも重なり、会場は熱気に包まれています。

今回のテーマは「野草:いま、ここで生きてる」。魯迅の散文詩集『野草』に着想を得たこのテーマを、私たちはどう捉えればよいのか。93組のアーティストが参加し、そのうち31組が日本初出展、20組が新作という世界最先端の現場を、彫刻家・飯沼英樹の視点で深掘り解説します。

1. 彫刻家が見る「野草」というマテリアルと生命力

テーマである「野草」は、踏まれてもなお芽吹く力強い生命力や、名もなき個人の存在を象徴しています。彫刻家としての視点で各作品を眺めると、その「質感(マテリアル)」の扱い方に驚かされます。

例えば、リニューアルされた横浜美術館の空間を活かした立体作品たち。それらは単なる「物」としてそこに置かれているのではなく、まるで地面から突き上げてきたような、あるいは都市の隙間に自生したような、生々しい「重み」と「存在感」を放っています。素材が木であれ、鉄であれ、あるいはデジタルな光であれ、そこに込められたアーティストの「刻み」の痕跡から、孤独な個人の抵抗と生存の意志を感じ取ることができるでしょう。

2. 必見のポイント:時空を越えた「木版画」と「縄文」への眼差し

本展は7つの章で構成されていますが、特に注目していただきたいのが「流れと岩」の章に含まれる特集セクションです。

  • 「李平凡の非凡な活動:版画を通じた日中交流」:飯野農夫也や鈴木賢二といった日本の版画家たちが、いかにして形を刻み、メッセージを伝えてきたか。削り出された線の鋭さは、現代の立体表現にも通じる力があります。
  • 「縄文と新たな日本の夢」:岡本太郎や石元泰博らが再発見した「縄文」のエネルギー。日本の造形の原点にある原始的な衝動が、現代アートとどう共鳴しているのか。彫刻を志す者にとって、このセクションは造形の本質を問い直す重要な契機となります。

3. これから訪れる方への「街歩き」アドバイス

横浜トリエンナーレは、メイン会場だけではありません。今回は「アートもりもり!」と称して、旧第一銀行横浜支店やBankART KAIKO、元町・中華街駅など、5つの会場に広がっています。

【おすすめのルート案】
午前中に横浜美術館で圧倒的なボリュームの作品群と向き合い、頭をフル回転させた後は、クイーンズスクエア横浜へ移動。そこから旧第一銀行BankART KAIKOへと歩を進めましょう。横浜の海風を感じながら街を歩くことで、展示室で受けた衝撃が自分の中でゆっくりと消化されていくのを感じるはずです。

4. 「野草」として生きる私たちへのメッセージ

かつて江戸時代の仏師・円空が洞穴の中で鑿(のみ)を振るったように、アーティストたちは現代という混沌とした時代の中で、自分だけの「居場所」を確保し、表現という根を張っています。本展に並ぶ作品たちは、私たち一人ひとりに「あなたはどう生きているのか?」と問いかけてきます。

一見、難解に見える現代アートも、その「肌触り」や「重力」に意識を向けてみてください。なぜこの素材なのか、なぜこの形なのか。その問いの先に、作家が感じた「生」の震えが見えてくるはずです。


開催概要

第8回横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで生きてる」
会期:2024年3月15日(金)~6月9日(日)
会場:横浜美術館、旧第一銀行横浜支店、BankART KAIKO、クイーンズスクエア横浜、元町・中華街駅連絡通路
公式WEBサイト:https://www.yokohamatriennale.jp/

春の光が差し込む横浜で、魂が揺さぶられる体験をぜひ。私も会期中に何度も足を運ぶことになりそうです。会場で見かけたら、ぜひ感想を語り合いましょう。

飯沼英樹